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2006年9月27日の1件の記事

2006.09.27

「上海ヤキソバ」9月27日

 僕が関わるメディアの面々に取材禁止令を出している店が西中島にあります。それはとある中国料理店のこと。塩味をベースにした上海系の料理内容で、メニューの構成も豊かなので何度でも通えます。

 よく周囲から言われますけど中国料理の各地の傾向がよくわからないということ。とてつもなく大雑把に言いますと、北京は火の通し方やスパイスを駆使した薬膳イズムをもった宮廷料理系。すなわち中国=3~4人前の大盛り料理、といったイメージの原点が北京で、味のベースは塩です。どの料理も一工夫を凝らしたものが多く、中国では最も高い技術を要するジャンルといわれているそうな。ほか四川は肉や野菜、スパイスをたくさん使い、煮込む料理、油をたっぷり使う料理が多く、広東は際限なしとよく言われます。洋物であろうが和物であろうが、素材も調味料もまったくの自由アレンジ。新しいものが生れる土壌と言われるのはそのためです。

 そして上海は何かというと、まずひとつに煮込み料理が多いこと。スープを使った鍋物とでもいいましょうか。魚介類や野菜のあっさりとしたものが多いような。さらに味のベースは塩になりますが、あまりコテコテと調味料に依存する感じではないようです。味に深みのある素材が豊富なことと、あとは油とスパイスの使い方が巧みということではないでしょうか。

 味のある素材の面では、魚介類が豊富なのは日本も同じだから想像がつくと思いますが、油とスパイスの世界は日本人の概念では理解ができないと思います。これはどちらかというと内陸の文化。象徴的なのがインドといえるでしょう。これは中国料理の基本中の基本のひとつであり、心身の健全を考えた珠玉の技法です。

 同じ油でも日本ではサラダ油あるのみですね。せいぜい肉系の店が使うラード、最近では西洋料理のオリーブオイルも相当に流行っていますが、これらはすべて、そのまま使うという考え方しかない。時にハーブを漬け込むなどといったこともありますが、それでかなり凝ったイメージがある。

 しかし、ここで言う油とスパイスの関係はそんな世界ではありません。ひとつは多様なスパイスを多様な使い道にあわせて漬け込むパターンがひとつ。そして、油を熱する直前に使う場合。さらに調理中に加える場合。とうぜん、火を切る直前や直後の場合。おまけにこれらの各段階で違ったスパイスオイルをブレンドしていく場合などがあります。一言で言えば、油とスパイスがすべての鍵。ちなみに日本料理は水が鍵ですね。それほど重要な位置づけにあるのがこの油とスパイスなんです。

 これは色んな役割があります。酸化防止、整腸、健胃、その時々によって違う体調の具合、といった健康面での役割。次に香り。それも最初に嗅がせたい香りなのか、食べている最中に感じる風味のひとつとしての香りなのか、それとも後味で効かせるための香りなのかによって、使うスパイス、油の使い方はまったく変わります。最後に味。油の味、というと、我々日本人には見当がつきにくいですが、これは本当に様々な味をかもし出すことが出来るんです。いや、正確に言うと、その素材と合体することで変化するといったほうがいいでしょうか。そのために時間をかけるべき調理と、逆によりスピーディな調理、もっと言えば調理後に少し時間を置く調理、という世界もあります。本当、複雑でめちゃめちゃ面白い世界です。

 ただし、残念ながら、こう言った技法を使いこなせる厨師(中国のコック)は日本に殆どいらっしゃらない。いても一流ホテルや高級料理店なので、我々のような下町庶民が体験できる距離感ではない。(東京吉祥寺の片隅にある香港という店は別) 

 しかし、その技法を使いこなしてしまう庶民のための中華料理店が存在するんです。それが西中島の「真水無香」。ここは本当に凄い。僕がこの街にやって来る少し前に開業されたような気配ですが、越してきて1週間後にたまたま入ったんです。そのときは卓上に積まれた取り皿が、コーヒーのソーサーだったのでとても印象的でした(日本ズレしていないそのムードがまた良い味)。

 コーヒーソーサーの皿は半年後にちゃんとしたプレート皿に変えられてしまうわけですが、もっとも驚いたのは、ここの料理が油とスパイスを使いこなせる厨師によるものということ。これは穴場中の穴場もいいところです。メニューは酒のつまみになるような小皿物がずらり。菜、海鮮、肉、とジャンルがわかれ、上海らしい煮的料理もいっぱい。さらには日本人がイメージする餃子やチンジャオロースのようなものも勢揃い。昼は800円の定食式ランチ。夜は3000円~5000円程度のコース各種、とあって、どんな客層でも招くことのできる態勢が出来ている。

 ここへ僕は多分30回くらい行ってます。いやもっとかな。で、コースは5000円のものを5人で、ランチは3回ほど、それ以外は夜にフリーで食べたいように食べてます。色んなものを食べたい性分なので、毎回違うもの、2~3度前に食べたことのあるもの、といった風にオーダーするのですが、ただその中で唯一外せないものがあります。それがこの店のヤキソバ。

 なんだ、ヤキソバなら・・・。とおっしゃる方も多いと思いますが、これがバカにならない。一見さほど変哲はないです。麺が細いということくらい。しかし、卓上に到着後、まずやってくるのがピーナツのような甘くてコクのある良い香り。箸でつまむとややモサモサとした感触ですが、欲張らず幅3センチほどを口に運ぶ。すると、少しばかり焦がしたことで生れるクリスピーさがあり、その直後に塩味が伝わってきます。で、そのあとにキャベツなどの細切りにされた野菜のしなやかな食感がやってきたかと思えば、まるで干し魚介のような旨味がまとわりついてくる。やがて飲み込んだあとには、先ほどのピーナツのような風味に加えて、ややユリ科ネギ属系統の香ばしさが残るんです。添加用の唐辛子漬けをいれると、さらに風味に丸みが増すと同時に、上品な辛味が走ります。

 これ、いつも満足しないうちに皿の上からなくなる。店のネーちゃんはいつも笑ってます。「こいつ、また物欲しげな顔してやがる」といわんばかりにね。

 この店の純粋さと腕のよさ、庶民さ、そしてチャイナネーちゃんの可愛さも、いつまでも続いて欲しい。そして無差別に客がやってきては満席になって欲しくない。だからオン・メディアを望まない。これは本当、僕の勝手なエゴでごめん臭い。でも、すでにファンの方はきっと同じような気持ちでではないでしょうか。といいつつも最近はどんどん客が増えているようですけど。

 西中島は都会の影的な存在感だけど、このように選り抜きの美味い店がいくつも隠れているんです。

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