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2006.11.14

「西なカレー島の重鎮はいずこへ?」11月14日

おかしい。西中島で最老舗のカレー屋「PARK」のシャッターが上がってない。気がついたのは連休明けの11月4日のこと。僕は10月末から11月の3日まで福島県を旅しており、帰阪後、仕事場に行ったのは4日の土曜日。そのとき「あれ、確か北海道は日曜祝日が休みだっけ。何で土曜日に閉まってんの」と思ったのだ。

それ以来、今日の14日までまだ一度もシャッターが上がっていない。この島に来て3年になるが、今までそこまで長く閉まっていたことはない。僕はそれほど頻繁に通っているわけではないが、月に1~2度は必ず顔を出していた。

「北海道」というのは勝手につけたあだ名で、店のオバちゃんの出身地だからだ。そして、ここのカレーのベースも北海道産の玉ねぎで作っているからである。これは関西においてはとても珍しいことなのだ。結果的にはまず味が違う。関西にあるカレーのその殆どは「甘味」と「旨み」を強調するのが掟のようになっている。この最たる理由は淡路産の玉ねぎを有難がることが起点となっており、淡路産は比較的大玉で、繊維質が柔らか、透明感があり元々甘味が高い。熱にも弱いため炒めるほどに粘性を帯びつつ透明となり、甘味もぺったりと舌に張り付くような感じである。

一方、北海道の玉ねぎは比較的小玉も多く、表皮がややドライ傾向。あの目に沁みる辛味(えぐみ)がとても強く攻撃的、かつ野趣的である。だが、一見甘味が弱いように思われがちだが、実際の糖度は淡路産とほぼ同じで、じっくりと火を通していくと同様に甘味が増長する方向へ向かう。ただ、繊維質がわりと強くて、調理法法によってはその少なからずのザラザラ感が残るため、調理済みのものを口中に入れると、淡路産のものに比べて甘味を強く感じにくい傾向にある。北海道は野性的、淡路は飴的、といったところだろうか。

そのために、一概には断言できないが、PARKのおばちゃんのように、日本式の粘度の高くこげ茶色系でありつつも合成料やブイヨンなどに頼らない作り方の場合には、この野性味を明確に残すことが出来るのである。そう、東京などで古くからカレーを売りにしている店などで表現される、あの特有のストレートな辛味、ひとによっては「ガツンと来る感じ」につながる味のことである。

関西で、いくら「ガツン」を出したくても、どうしてもチリ的な辛さえdしか表現なしえないのはこの玉ねぎの仕業である。ただし、純粋に玉ねぎをベースとし、さらにそれを正しく炒めて、なおかつ他の調味料に頼らない場合においてのみの話。その殆どのカレーはごった煮、つまりシチューの延長線上にある方向で作られているために、そのようなカレーはこの限りではない。

オバちゃんはそんなことも知らないし、今時のグルメ通競争なんてどうでもいいとおもっている実直な人。「そうかしら」といいつつ、いろんなことを僕が伝えると「なるほどね、それで私のカレーは関西人にイマイチ受けが悪いのか」と腕を組み有様。

ここのカレーは一見は日本古典的な楕円系のカレー皿といわれる白皿での盛りだ。右端にライスが位置し、左半分にたっぷりのルーが乗る。だいたいにおいて、チキンカツやナス炒め、ウインナーなどのトッピングがつくが、これが昼でも夜でもサラダとアイス珈琲付で600円前後と悲しいまでの安さである。手順を考察すると、いくら30年近くこの道を歩いてきたオバちゃんでも、絶対に3時間はかかる世界。(カレー屋のすべてが仕込みに時間がかかるわけではない!)

実直な人ほど手間隙がかかるのがカレー世界なのである。逆に言うと、手を抜こうと思えば思うほど、とことん合理的になれるのもカレー世界。それは単なる「頑固」や「こだわり」といった今時の浅はかなキャッチコピーで片付けられがちだが、決してそんなアホな世界ではない。田舎の婆ちゃんが孫に飯を食わせるような、今でもどこかの小島で食べさせてくれる郷土料理のような、そういった情報データ化できない、非科学、未科学な「気持ち」の世界なのだ。

「美味しいものを食べさせてあげたい」というだけのシンプルだが、これがなかなか半端じゃできないことなのだ。今の時代でこのような店は希少であるが、残念なことにその殆どは消えていく運命にある。どうしても流行らないのである。マスコミが騒がないとダメなのである。ただし、このマスに乗ったとしても、「老舗」「頑固」「一徹」「長時間」「多種で複雑なスパイス使い」、そんなアホな言葉に乗っかるしか道はない。

この時代、美しい味を作ることの出来る人はみんな疲れている。ライターという職業を持っていながら僕はとても悔しい。新しいもの、奇抜なもの、他とは目に見えて違うもの、流行なもの、流行になりそうなもの、そういった格差が明確であれば明確なほど飛びつくのがマスのサガ。そして、店側がその線上に乗っかったとしても、一度その力に委ねれば永遠にその風に乗り続けなければならない宿命もある。ギャラをもらうタレントでもないのに、ますの宿命に付き合わなければやっていかない現実が待っているのだ。

僕はPARKのことは書かない。いや、正確には巷のグルメ誌には書きたくなかったのである。ジャーナリズムとしての表現が許されるのならぜひとも書きたい店なのだが。関西において、30年近くも東、いや北流のカレーを作り続けるオバちゃんのスタイルを。西中島には関東系の支店が数多くある。だから関東組が集まる居酒屋や焼肉屋、飲み屋などが数多い。その中で、あまりにも客単価の低い、それもカレー=昼ごはん(そういうデータがでている)といった、揮発性の高い時間帯で商売をしてきたオバちゃん。

いったい、どうなってしまったのだろう?
再びシャッターが開く日を待つのみだ。

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