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2015.01.17

『十三トリスバー』2代目店主 江川栄治(前編) 【職人味術館】再録

「夢を見るところ、味わうところ」

取材の話をすると、店主の江川栄治さんは「カワムラさんはうちのことわかってるから任せるわ!むふふふふ・・・・・!」と笑顔を見せました。

僕はかつて十三に住んでいた時に、『十三トリスバー』へ通い続けたこともありましたが引越しして足が遠のいてしまい、今回お会いするのは3年ぶりのこと。

それなのに、いつだって江川さんは昨日も会っていたかのように接してくれます。

「写真もよーさん撮ってるやん!今までのん、カワムラさんがいいと思うもん選んでくれはったらええて」

この親近感のあり方が江川さんの真骨頂。肩の力を抜いてくれる鍵がここにあります。
僕は一瞬、あぁそれでもいいかぁ、などと思いそうになりますが、いやいやっ、アカーン!

”そう言っていただけるのは光栄なんですが、だからこそわかった気でいる可能性もあるし、おそらくもっと掘り下げたいところもあると思うので、ここは一から改めて取材をお願いします!”

お店が生まれて半世紀以上。多くの著名人にも愛されてきたことから、その威厳や歴史の深さが伝えられてきました。でも、今回は通でなければ達人でもない、お茶の間ライターの僕。ラフすぎるところもあるかもしれませんが、どうか大きな心でお付き合いいただければ幸いです。

というわけで、僕と『十三トリスバー』の出会いから。
お店に初めて訪れたのは20年ほど前だったと思います。僕は大阪の郊外に26歳(1991年)でバーを開業したのですが、そのすぐ後に、酒に詳しい先輩に連れられて一度か二度訪ねたことがありました

しかし、そのときは超有名な老舗、スーツ姿と派手な衣装の女性で埋もれる客席、さらに界隈の喧騒にもおどおどしながらウイスキーのソーダ割りを飲んだことしか覚えておりません。はい、完全なるおのぼり状態です。

そして、しばらく経った1995年、いろいろ縁あってライター業に転じたばかりの僕は、大阪ローカルのとある雑誌で十三特集を任されることになり、その時に初めて江川さんとお話させていただきました。

それまでも高級ホテルなどのメインバーが大好きで、もちろんいろんな街の名店も飲み歩いたし、取材もそこそこしていた僕でしたが、『十三トリスバー』には、他にない特別な思いをもちました。

それは、これほどに猥雑で騒がしい街の中にあって、さらに風格があるといえばそうですが、見方によっては古びて庶民的な感じのする店内であるのに、決してガサツではないということです。

高級ホテルや立派なビルの中にあるバーなどが、ある一定の敷居を守っていられるのは当たり前の話。しかし、ここは大阪を代表する歓楽街・十三のさらにカオスである通称しょんべん横丁のど真ん中。そんな『十三トリスバー』において、なぜガサツな客がいないのかと。

多くの酒場では、酔って客が暴れたり、ややこしい客がやってきたりするもの。いや、少なくとも当時の僕はそういうものだと信じていました。

でも、その時の僕は、江川さんの話を伺えば伺うほど肩の力が抜けていくと同時に、なんかこう朗らかな気分になっていく。たがが外れて開放的になるというのではなく、安心感に満たされていく、といった感覚になりました。

すっかりリラックスモードになってしまい、取材後に一杯だけ飲んで帰ることにしました。で、そのときに飲んだ生ビールの味が僕には忘れられないものになりました。

出されたビールグラスは、べとべとのべっちょべちょ。”ええ!名店の生ビールがこんなにワイルドでいいわけ!?”と心の中で叫びました。

しかし、一口飲むとこれがまた驚愕。
”うわっぁ、なんて美味しいのか!見た目がイカツイのに、中身はとてもまろやかで優しい。いったいどうなってるんだ!”と大興奮です。

そして、その美味しさに心を委ねるうち、なぜだか涙がじゅわじゅわと出てきました。目の前には『十三トリスバー』名物女将のおかあさん(清子さん)がちょこんと立っています。

僕は涙をごまかすかのようにこういいました。

「いやぁ、まったく、こんなに美味しい生ビールは初めてです。もう、なんでかわかりませんけど泣けてきましたわ!」
すると、おかあさんが笑みを浮かべながら、そっとおしぼりをくださいました。

拭いても拭いてもこみ上げてくる涙をおしぼりで拭いながら、これはいったい何なのか?とよくよく胸に耳を澄ましてみます。

すると、ふと自分がバーをやっていた時代のことが思い浮かんできました。

『十三トリスバー』とはどうしたって比較になりませんが、それでも語りつくせぬほどの苦労がありました。

最初はレストランとして始めるも3日間客はゼロ。各所に頭を下げて回って必死でカクテルを覚えて急きょバーに変更したこと。いろんなややこしい客も多かったこと。やっていけないものだから無理やりライブやクラブイベントを強行し、騒音や迷惑駐車などで警察沙汰になったこと。全焼とも言えるほどの火を出してしまったこと。しまいには体調を崩して入院してしまったこと。他にもいろいろありすぎるほどありました。

世話がやけるほど思い入れも深くなっていくもの。店は命懸けで育てた愛娘のような存在でした。しかし、しばらくしてから苦渋の決断で人に店を譲ることに。そして、いろいろ縁あってライター業に転身していったのです。

とにかくこのときの僕は、バーをやめてから江川さんとお話させていただいたこの日まで、酒を美味しいと思ったことは一度もありませんでした。

でも、本日はグラスがべとべとでも、身体が震えるほどにうまい。そう感じると同時に、今までしまいこんでいたいろんな思いが脳裏をフラッシュバックする。意味もわからず、ただただ噴出してくる過去を涙と共に洗い流しました。

このときは照れくさく、またそんな自分にあわてながらも、最後までごまかしきったつもりで僕は店を後にしました。そして家に帰ってから、このときの生ビールの美味しさについてこう解釈したのです。

酒はどこで飲んでも同じ酒。でも、美味しいと感じるのはその店の空気、雰囲気、バーテンダーの絶妙な気づかいがあるから。つまり酒の味を左右するのは、そこにいる人や店によって変わると。

以来、他のバーの取材をするたびに、酒やテクニックの説明よりも、その店の接客のあり方や会話のこなし方、雰囲気などを重点的に書くようになったのです。ええ、ありがちといえばそのとおり。

あれから18年が経ち、いまあらためて江川さんにうかがいます

”江川さん、バーにある空気と言うものはどのようにして作られているのですか? やはりつかず離れずの絶妙な間合いですか、それともあえてBGMをかけないこととか? 歴史の古さも影響しますか? 18年前のあの生ビールのうまさは今も忘れられません”

今日は蝶ネクタイをせず、私服のまま僕と同じカウンターに座って話に付き合ってくださっている江川さん。数秒間、前方を見つめながらじっと考えたかと思うと、ふと顔を上げ、いつものように目をまん丸にして高い声でこう切り返されました。

「う~~~~~ん、とっ・・・・・・・・・。生ビールって子守みたいなもんでね、目を離したらあかんのですよ!」

がくっ!

「それがバーというものだよ」とか「本物の酒は心を洗うもの」とか、そんないかにもなレスポンスを期待しまくっていた僕は椅子から落ちそうになりました。

「うぅ~~~~~ん!生ビールっていうのは、いろんな世話をしてやらなあかんのです!毎日の掃除、ガス圧の管理、温度、ホースの長さ・・・。あ、それとグラスのことも面倒みたらなあかん。そうや、ちょっと見せてあげるわ、こっちこっち!」

江川さんはすかさずカウンターの中に入り生ビールのサーバーの前に進んでいくので、僕は客席側からサーバーの前に駆け寄ります。

”あ、あのぅ、ビール一杯で泣けたあの雰囲気というか安心感をどうやって生み出しておられるのか、という質問なんですけど・・・・・・”と僕は胸の中でつぶやきながら江川さんを凝視。

今から江川さんは何を始めるというのでしょうか?!

つづく

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