スパイスとの出会い 不眠症とミント編
僕は20代後半の時、酷い不眠症に悩まされていた。
26歳から国籍などを意識しない創作料理と渋いソウル音楽をテーマにした店「ピーエイジバー」を開業するが、周囲は田んぼの閑静な住宅地のマンション2階という立地環境で、あまりにも客が来ないため、急きょボトルが飛び交うワイルドなカクテルバーに無理矢理に軌道修正。
その作戦が正解だったようでなんとか店をたたまずにすんだが、おかげで僕自身がディープドリンカーとなってしまい、日に日に手作り料理から缶詰の珍味や乾き物へと入れ替わり、挙げ句の果てにナンパを売りにする店となってしまう。
音楽も情緒のある渋いものから攻撃的なヒップホップやハウスなどが主流となり、金網で囲ったDJブースを構え、毎週のようにダンスとライブを繰り返した。
酔ってなってなんぼの世界だから連日オーバードリンキングでハイテンションは冷めやらず。
店は毎朝3時まで。終わってから国道筋の吉野家の牛丼を食べてから朝5時頃に寝るという生活だった。
やがて興奮が落ちることがなくなり、だんだんと悪夢にうなされることが増えていく。
で、朝の8時や9時に目が覚めて、町の騒音を聞きながらイライラしながら布団でずっともがいているのだ。
そこで僕はますますエスカレートし、缶詰のエビスビールに世界最強のウォッカであるスピリタスをちゃんぽんしながら飲むようになる。が、やがてはこれも効かなくなり、いろんなダークなものにも手を染めだす。
こうなるともう抜けようはない。何度か病院送りになった経験もあり、最終的には神が止めた。
店が燃えたのである。原因は、今だから言えることだが、本当は僕たち店側の失火であるところ、ボロボロの姿の僕を見て消防署や警察の方々が人情を持って処理してくれたのである。
営業は不可能となり、僕は店先で屋台をやりながら数ヶ月をかけて這い上がっていくわけだが、この時期が不眠症のピークだった。
多くの友人や常連客なども心配してくれて、とにかくいろんな対策を講じた。心療内科で精神安定剤を処方されたり、鍼灸や百草もやった。
でも酒もやめられないし、病院で検査しても脳波はおかしなままだし、不眠症はいっこうに治らない。
そんな時である。家の向かいにあった漢方薬局に取り憑かれたかのようにふらりと立ち寄る。
いろいろ話を聞いてもらって、最初は聞いたことのない薬をもらうが全く効かず、その旨をつげると今度はシナモンを含んだ配合をもらい湯に煎じて飲んでみた。
するとこれがなかなかいける。寝つきは悪いが一応は落ちるのである。途中で目がさめるけどもその後また眠ることができた。
その結果を伝えると、その薬剤師は僕の体質を理解したかのようで、いろんな生薬を見せながらとくと解説してくれて、予備として別の葉のようなものを出してくれた。
これがミントだった。スペアかペパーか種類は覚えていない。これを目が覚めた時に湯に煎じて飲んでみろというのである。
その日の晩、さっそく試してみるとこれがなんとも気持ちがいい。薬剤師の言うようにすぐに飲みきらず、しばらくはカップを手で包むようにして湯気をゆっくりと深く吸い続けるのである。
するとスーッと前頭葉あたりにあるイライラが和らぎ、静かに平和な気分になっていくのである。
明日も店に立つのが怖くて仕方がないのだが、それまでの間しばし安息の時間を得られるということがとても有難く思えてきた。
薬剤師曰く「好みでミルクと砂糖も加えるとなおいいかもしれない」に従ってみると、それもまたドンピシャだった。
以来、とりあえずはいったん寝落ち、2時間後に目が覚めて今度はミルクミントを飲み、さらに3時間ほど寝る、という暮らし。
結局、ミントの煎じ薬とミルクミントの併用作戦は1年近く続く。
このように処方が自分にあうことを漢方の世界では「証が合う」「証に合わせる」というらしい。
不眠症だからといって全員が一様に同じ処方が効果的かはわからないということ。
紆余曲折して僕の場合は最終的にミントに行き着いたというわけだ。
それまで単なる飾りにしか思っていなかったものが、実はどんな薬よりも力強いお守りになってくれた。
僕はこうしてスパイス&ハーブが健康面でも役立ってくれることを初めて知った。今から24、5年前のことである。
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