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2016年11月27日の1件の記事

2016.11.27

『魚河岸鰻遊』第六話「捌きのサムライ」

カワムラケンジ・アーカイブシリーズ

〖魚河岸鰻遊〗

月刊誌『ソトコト』2005年7月号№73から2006年6月号№84まで全12話にわたって連載。作品性を保持するために時間軸など2005年の執筆当時と現代の相違部分の修正・調整はしていません。

今回は第六話「捌きのサムライ」(1600W)の生原稿です。

*無断転載等は固くお断りいたします。
 

『魚河岸鰻遊』第六話「捌きのサムライ」(2005年12月号№78)

 魚河岸は魚を売買するだけの場所ではない。店にもよるが多くの仲卸商店が顧客のニーズに合わせて様々な「捌き」というものをしている。

たとえば僕がいた店ならホテルや結婚式場などの大手の得意客が多く、数はもちろん常に同サイズを揃えることを原則とし、その上で鱗を剥いでワタを取る、といった捌きが必要となる。

しかも、多ければ200尾などという大量のオーダーが入り、ホテルなどはオペレーションが命だからとにかく迅速でなければならない。

ましてや東京は慢性渋滞の街。配達、搬送の時間を考慮しつつも、朝からひたすら包丁仕事となることもあった。それでも間に合わないときは、お得意さんの厨房に入り込んで手伝うなんてこともある。鮮魚は本当に時間との勝負なのだ。

 ここで少し鯛の捌きについて。まずは左側に仕入れたケースを、右側に空の容器を山積みにする。そして左手で鯛を頭から持って取り出し、まな板の上に乗せて今度は右手にもった専用の道具で鱗を剥ぎ落す。

ここで焦って力を入れすぎると逆に鱗が取れないので、抑えながらあわてず傷をつけないように丁寧に、尾から頭に向かって迅速に引くのである。

これを終わらせると次はワタを取る作業。やや右の腹に斜めに少しだけ刃を入れて、左手で腹を抑えるような格好で上手に抜き取る。食べる人の前に並ぶとき魚の頭は左に向くわけだから、切り跡は少しでも見えにくいようにするための流儀である。

こんな面倒臭いことを当時の平均で1日50~100尾分は繰り返す。1尾を15秒で捌いても一人でやれば30分、200尾もあればマッハでやり続けても50分ほどを所要する。でも本当はこんなに時間をかけていられないわけで、実際はもっと早いはず。

 魚河岸ではほかにも様々な捌きシーンを見ることが出来る。妙に面白かったのが僕のいた店の左斜め向かいにあった貝専門店だ。

腕カバーをした3~4人の女性が「トン!カカッ!ブチュン!」と、なんとも早くてリズミカルな音を立てながら、ひたすら赤貝を剥くのだ。

分厚い貝殻を右手に持った小さな貝剥き具でトン!カカッと叩き割って、中身だけを傷つけずにブチュンと容器の中へ落としていく。地味な動きであるが、これを寝てもさめても毎日延々と繰り返しているのである。心底、見事な芸当だと思った。

 そして築地といえば、やはりマグロなしでは語れない。店の左斜め前が貝屋だったのに対し、右斜め前はマグロ屋であった。

当時のマグロ屋には、ほんまにヤーさん顔負けの怖そうな兄ちゃんがいっぱい(今は紳士が多い!?)働いていて、中にはスキンヘッドにマグロの血がべっとりと滲んだサラシ姿の人もいた。

そんな強面の男たちがあの巨大な肉の塊を捌く、いや肉のように解体していくのだから迫力満点だ。

まず、驚くのは使う包丁が日本刀のような長い物から、時代劇でよく目にする小太刀風のものまで何種類もあること。さらに数人がかりで巨肉を持ち上げるその様も豪快である。

最初は頭と尾を落とし、次に縦4つ。その後は徐々に短い包丁に持ち替えて、やがては、いわゆるブロックとなる。真っ赤な身を捌き倒すその姿は見ていて、やっぱりマグロは築地のスターなんだなと痛感する。

 最後に驚きの捌き芸をもう一つ。アンコウの吊るし切りである。やや広めの店なら店頭で、小さい店なら路地の広い場所で、そのエイリアンの口にごっつい金具をひっかけて、腹を一気に包丁で切り裂くのだ。

するとワタがベトボチョブロ~ンと飛び出てきて、しばらくそのまま放置するのである。

こちらが急いで路地を曲がった途端に、突然こんなもんが目線の高さで立ちはだかるもんだから、下手なお化け屋敷よりもびびったりする。店の人間もきっとそれを狙って、わざわざ目立つところに吊るしていたのではないか。

 魚河岸というところは、このようにあらゆる魚と刃物の修羅場、迅速かつ丁寧な仕事が日常繰り返されており、そして何よりも根性が鍛えられる場所なのである。
 
 
【築地辞典】

●ウロコとり

歯ブラシのような形をした金属100%の道具である。微妙に反っているので魚にがっちりとあてて削ぐとよく取れる。力任せで剥ぐと身に傷がつくので、力を入れつつも強引に引いてはならない。しかし、この一見単純な作業が本当に面倒くさい。

●貝屋

魚河岸の中にはこのように貝屋やマグロ、淡水魚、カニと海老、それ以外は一般鮮魚などとジャンルが多様に分かれている。捌きに関してはほかに、鰻裂き、各種海老の殻剥きや足もぎ、電ノコで切断するボディが長いカジキマグロ(冷凍)などもある。

●包丁

マグロ切り包丁の長い物は150センチもある。貝屋は貝剥き、一般鮮魚屋は鱗取りや一般的なおろし包丁、鰻屋は目打串と鰻包丁。ちなみに江戸式の鰻包丁は木の柄がついているが大阪式は柄のないむきだしの鋼製。京都式は木の柄だが刃はナタのように太くて短い。
 

●文化遺産

おろし包丁/Oroshi bocho

マグロ解体に使う刀のような長い包丁をご存知だろうか。実際には板前が使うような小さなものから、60~70センチクラスのものなど多数の包丁を使用するが、身を4つ割りにしたりするときはこの長い包丁を使うのが江戸の伝統である。これは日本橋魚河岸時代に『東源正久(あづまみなもとのまさひさ)が生み出したものだ。刃渡りの長さは最大企画っで4尺8寸(約145センチ)。「これほどの長いものを使っているのは魚河岸の中でも2~3軒でしょう」(築地店店主談)。値段は25万円前後というこれまた魚河岸でおそらく最も高価な道具であろう。「サイズはマグロに合わせて年々大きくなってるね。20年前まで(*2005年当時からみて)は4尺(約121センチ)。それまでは2尺(約60センチ)。マグロの取引が急増しだす明治後期頃の生まれ。現代、世界のマグロの約半分が築地に集結するといわれるが、この長いおろし包丁はその証といえる。
*東源正久築地店 03-3541-8619(日本橋店も健在)

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