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2017年2月21日の1件の記事

2017.02.21

『魚河岸鰻遊』第七話 「もう一つの魚河岸、豊海埠頭」

カワムラケンジ・アーカイブシリーズ

『魚河岸鰻遊』

月刊誌『ソトコト』2005年7月号№73から2006年6月号№84まで全12話にわたって連載。作品性を保持するために時間軸など2005年の執筆当時と現代の相違部分の修正・調整はしていません。

今回は第七話「もう一つの魚河岸、豊海埠頭」(1600W)の生原稿です。

*無断転載等は固くお断りいたします。

『魚河岸鰻遊』第七話 「もう一つの魚河岸、豊海埠頭」(2006年1月号№79)

 魚河岸から見て隅田川の南東にある豊海埠頭は水産保冷庫ビルの銀座だ。僕が勤めていた酒盛物産では、魚河岸で鮮魚店を営むと同時に冷凍品の卸売もやっていた。魚河岸の中にも保冷庫はあるが、大量に扱う酒盛物産は豊海の一角に倉庫を借りていた。

 埠頭へはいつも2人組みで行く。相方は2歳年上の高澤雄三さんで、落語家口調の冗談が得意。なんや、東京にも芸人みたいな面白い人がそこらへんにいるやんか、と思わせてくれる人である。

 我々はトラックやフォークリフトの合間を抜けて中へ入り、金属的な雑音がしまくる大きな荷物用エレベーターに乗って上っていく。

 そしてまずは自動販売機でホットコーヒー(夏場でも)をすすってから、羽毛がびっしりの分厚い長靴と手袋、縫いぐるみのようなぼわぼわのパンツをはき、上半身にはエスキモーが着ているような毛むくじゃらの頭カバーがついたジャケットをはおる。

これで準備万端。いざ開ボタンを押してドアーの向うへ!

 庫内は息が白くなるより先に顔が縮んでしまうほど寒い。温度計を見ると零下約25℃。北極とほぼ同じだ。中にある有頭&無頭のエビ、蒲焼&白焼の鰻、鯖や鮭などは当然カチコチとなっている。

 ここで我々は新入荷品を搬入したり、在庫分を搬出したり、またオーダー分を取り出したりする。

 大きな荷を運ぶときはリフトを使うのだが、これがターレとはまた違っていて面白い。先端に蟹の爪のような2本の金属棒が出ていて、こいつを木製のパレットに上手にはめ込んで動かすのである。しかし、極寒の中。すぐに身体が固まって動けなくなってしまうので、執拗に無駄なことを大声で放ちながら行うのだ。

「ほぉ~れ!男だったら上手に入れろ、この野郎!」「じゃかましいわい、よう見とってやぁ」

 高沢さんは身体を動かしながら言葉と作業を繰り返す。この室内にいられるのは1回で10~15分程度。それ以上だと冷え過ぎて手足の感覚はなくなり、眼球はしょぼしょぼ、鼻からはナイアガラの滝のように水が流れだし、口は動かなくなって最後には無言となってしまうからだ。だが、若い僕らはずーずー弁みたいになりつつも長居する。

「う~い、ケンつぁん、すろすろ入って20分でぇ!おすっこすてぇんだけど、このまましちまぉうかっつって」

「ええんとちぁう?すぐ凍るやろし問題あれへんよ。やってまいって~」

 そこで本気でやろうとするのが高沢さんの面白いところ。しかし「あれれぇ~、身体が硬直しすぎて尿道が塞がっちまってるよ」と、それほど寒い。

 もちろん、このまま中で続けられるはずもないので30分ほどで外に出る。そして今度は缶のコーンポタージュや紅茶などを飲んではトイレへいき、そしてまた中に入るのだ。

 ただ、これを2~3回ほど繰り返していくと、普通の地上では得られない不思議な快感を覚えていくのであった。そう、零下のジャンクという世界が存在するのである。意識は朦朧、心臓の鼓動もはるか遠くで小さくなって力がないのに、妙にヘラヘラと笑えてくるのだ。

 庫内は各社ごとにフェンスで区切られていたが、他の会社の者で鼻にツララをつけながらにやにやとほくそえむ人を何度も見たことがある。室温が低すぎて青白い蛍光灯もチカチカと震えるように小刻みな点滅を繰り返す。

 我々の限界のサインは冗談が出なくなったときだった。そうなるともう危ない。すべてが静止に向かう零下の世界では、人間の温度のある声だけが頼りなのであった。だから1人で無理したり、相性の悪い者と入るのはあまりよくない、というわけだ。

 さて、肝心の冷凍物の味であるが、実は下手な鮮魚よりもよっぽど美味かったりすることがあるから侮れない。北欧の鯖などは生臭くないし脂はたっぷり、値は鮮魚の半分といった秀逸品だ。

 実際、多くの得意客は鮮魚と冷凍魚の両方を、状況に応じて仕入れている。魚河岸を支えているものは場内にある鮮魚ばかりではないということだ。

●メインカットキャプション

マイナス25℃~30℃が一般的な庫内温度。写真はマグロなど大物用の超低音冷蔵庫でマイナス45℃以上!
(撮影協力/(株)マリンプロダクツ)
 

【築地辞典】

●豊海埠頭

築地魚河岸も実は昭和初期に埋め立てられた土地である。その後、勝鬨橋を渡った南東に水産島の豊海ふ頭が、そのまた先に一般物流島の晴海ふ頭、もひとつ先に別名ガス島、発電所や鉄鋼所が根を生やす移転問題で揺れる豊洲ふ頭がある。

●有頭&無頭のエビ

冷凍エビの殆どはインドや東南アジアからのブラックタイガー。そして頭付きと頭抜き、また殻付き、殻剥きなどいくつもの種類がある。サイズは1ポンド(453g)に対した表示で、16尾から20尾(16/20)入ったものが標準。数が多いほど小さくなって割安になる。

●蒲焼&白焼の鰻

中国や台湾からくる冷凍鰻。こちらは多様な規格があり、有頭&無頭、素焼きの白焼、タレつきの蒲焼、1尾を半分に切って両方を串に打ったアミ串、3尾を4つに分けた4分の1串、1尾を半分にした正ポン半串、また串やカットをしていない長焼などがある。
 

【築地文化遺産】

7.手ヤリ/Te-yari

手ヤリとはセリのときに使われる指のことである。1の桁はピンと呼ばれ人差し指が一本。2はじゃんけんのチョキ。3はOK。4は親指以外を、5は全部の指を立てる。6は親指だけを立て、7はそれに人差し指が加わる。8は中指が加わり、9は親指と人差し指で摘むような形になる。人差し指を2回振ればピンピンで11となる。これは各地の市場によって少しずつ形が違うわけで上記のものは築地流ということだ。築地の商品数や仲買人は日本で、いや今や世界で一番多いわけで、セリは実に豪快でスピーディ、なおかつ多様な駆け引きが隠されているので面白い。独特のリズムで声を張り上げる台上のセリ人と雛壇のような台の上に並ぶ帽子姿の仲買人の戦い。この妙はまたの機会に話すとして、気になるのはこのセリがいつかコンピューター化するという噂である。
 

築地移転【みんなの声】

「ただのコンクリ&トラック市場なんて要らない」

なんと築地以外でも移転に関する様々な論議が交わされていた。所は移転先として挙げられている豊洲周辺。移転計画が公表されてから発足した「豊洲の街づくりを考える会」運営委員の渡辺哲三さんを訪ねてみた。
「移転すれば今の1.5~1.8倍のサイズになると言われています。つまりその分家賃は高くなるわけで、そうでなくても経営が苦しいこの時代、多くの仲卸が撤退や閉業をすることでしょう。さらに交通や公害の問題もあります。新市場は何本も橋が架かり、そこをトラックが横行する計画です。豊洲再開発でオフィスビルや数々のマンションが建つというのに、その共存は本当に可能かな。閑散としていて冷たいコンクリートビルの中を人ではなくトラックが行きかう市場?そんなの豊洲に作って欲しくないんです。魚河岸の本当の魅力は商店や買物客が行き交う人間模様にあるはず。いや、安易に反対ってわけじゃないんです。やるんだったら、みんなで誇りに思える本当にいいものを作ってもらいたいということ。都はそのことを本気で考えてくれてんのかな」

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