旅の数だけおいしさがある
先日、書物の探し物をしていたら、たまたま一冊の本が目にとまった。2005年発行の『山海の宿ごはん』だ。
これは大阪の老舗グルメ雑誌「あまから手帖」で「馳走の民宿」という連載をしていたものを綴ったムック(別冊)である。
できるだけ10000円以下、高くても15000円くらいまでの宿を味わいつくす企画で、おのずと民宿になるわけだが、建物や空間は気軽か簡易、時に人の家そのままでありながらも、実にクォリティのある料理が存在したり、それにかかわる人々がとてつもなく魅力的だったりする。
東は愛知県から西は愛媛県まで、主に西日本の30地域(宿ごはん)だ。もちろん全編、僕が自ら取材し原稿を書いている。
この本の特徴は、一軒の記事が長い。当時、A4サイズで写真も大きく入って6~8ページのボリューム。そして、民宿だからこそ実はありえる贅の極みに着目している、という編集技だ。
民宿という階級は言ってみれば、宿主の人間力が熱源のすべて。その殆どは個人経営のため、高級旅館やホテルのようにあれもこれも豪華絢爛な設備にできないし、手厚いサービスも難しい。
だからこそ、どこか一ヶ所にもてなしの心が集中する可能性が高いのである。それが「味」に集約されている民宿を編集者は綴ろうとしたわけだ。この視点はかなり斬新だし、勇気がいる。あるようでなかった、実は凄い企画なのだ。
そこに僕の得意なリアル目線をぶっこませていただいた。本誌は老舗のグルメ雑誌だからとにかく真面目なんだなぁ。
実際の旅というものは、そりゃ人によるけど、少なくとも僕の場合は台本がないところがポイントなわけで、もう大半が奇想天外なのである。
また、見た目や出来事として意外性がなかったとしても、一見ありきたりの町や自然に見えて、よく見るとぜんぜん違うなんてことはざらにある。
先日行って来た福島の旅でも、例えば西側の会津若松のほうへ行くと、同じ信号でもみんな縦型なのだ。何でかなと思っていると、連れが「この辺はドカ雪が降るから信号機が折れんだね~」。
そう、雪が重たいものだから信号機が折れてしまうのだ。とそんな感じで、信号機さえも旅の妙味となっていくのである。
本誌の体質と僕の体質はあまりにも、いや、もしかしたらまったく逆なくらいかけ離れている。なので、大半はNGを食らってしまうわけだが、それでも編集者はめちゃがんばってくれて、この寄り道体質の僕をできるだけ泳がせてくれたのであった。
どんな取材陣でも同じだと思うが、特に旅なんてものは実際にこちらが楽しめていないと全くダメである。その波動が読者に伝わってしまうのだ。
旅の本を読む人は、まず持って自分も旅好きのはず。寄り道こそが旅であるし、その気配は文章や写真であっても瞬時に見破られてしまう。
旅というものは、想像力というやんちゃなおもちゃをどれだけ使いこなせるか、で楽しみの深みは格段と変わる。国内か国外かではない。
人の数だけ旅の仕方がある。だから、その町や自然の魅力、そして味わいも旅の数だけあるということだ。
家と仕事場の間の道にも旅はひそむ。僕はそんなことを日々発掘してストレス解消につなげている。冒険は距離やサイズではない。
宣伝じゃないけど、もし機会があれば『山海の宿ごはん』を手にしていただければ嬉しい。まだ絶版じゃないようだし。
掲載されている宿はたぶんみなさん現役だ(と思う)。関西のみならず全国の旅好きの人々にぜひ読んでもらいたい(僕は原稿料制で印税ではないので儲からないけど┐( ̄ヘ ̄)┌ ~)。
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