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スパイスとの出会い、インド料理への目覚め 第二話

スパイスやハーブの経験が増えていくものの、カレーやインド料理の実態(僕の場合は構造的な面で)は謎のまま。築地魚河岸から大阪に戻ってきた僕は、ある人の案内により、大阪北部の郊外で14坪31万5千円という高額賃料の店を始める。

が、夢はやっぱり夢で、3日たってもお客は一人も来ない。何日も前から一所懸命に仕込んだ料理を、自分で腹いっぱい食べて、後はすべて捨てるということの悔しさはなかなかのものだ。

やっぱり田んぼの横ではどうにもこうにも。人通りはまったくないし、建物は道路よりやや北側へ向いてるし、中2階で存在感はからっきし。

店先に大きな煙突でも作って道に匂い攻撃をするか。歩道でダンスショーをやればいいかも。目立つ看板を作るべきでは。友人たちも一緒に色々と考えてくれた。

色々と手伝ってくれていた大工の先輩がぽつり。

「そういえば箕面って女子大がいくつかあったな。●●女子、○○短期、□□美術女子、国立◎◎大学とか」

すると、ちゃらちゃらのナンパ後輩の目が大きくなる。

「○○短期いうたらメッサ(めっちゃよりも上)ええ女が山ほどいますよ!この前も梅田ナビオ前でひっかけた子が○○短期の子で、その友達も最高に可愛かった!」

男の癖にコロン好きのちゃらお2号も続く。

「それいいねー!チラシを作って女子大へ巻きに行こうぜ!ケンジ(僕のこと)は絵が得意やったんちゃうんか。なんか描け!」

「それそれ、女が喜ぶ絵!ええやん、女子大女子大、うおおおおお!」

となり、急きょ店の外も中身も大改造に踏み切る。まず店のテーマを思い切ってショットバーに変更した。そう、開業当初は創作を駆使したレストランを考えていたのである。

だが、今後は自慢の料理はできるだけ取捨厳選か、新たに考え直し、オードブル対応に変える。

木の壁をトタンで埋め尽くし、そこにカラフルな絵を描き、10センチほどの小さな窓を2ヶ所開ける。

「女は見たらあかんものを見たがるんや」という先輩大工の名言でそうなった。

音楽は自分の趣味のうるさいロックではなく、黒人の渋いバラードや女性シンガーもわんさかとかけるように。

そして肝心のチラシ。当時はコンビニもなければパソコンもない時代。プリントする、という発想自体が斬新といえばそうで、友人の会社でこっそりと何日もかけてコピーさせてもらった。

その会社が残業の時などは、夜な夜なお邪魔して、友人と一緒にコピー機のスイッチを押し、その後、手動の断裁機で「グシャグシャ」とB6サイズに切っていく。

もう一人の友人の会社には、当時では斬新過ぎる印刷機という見たことのないものがあり、こちらへも深夜にお邪魔してはひたすら励む。文明の利器とはいえ、まだまだ発展途上だからこれがすぐに紙詰まりを起こしたり、インク滲みなどが起こったりしたものだ。

看板も自作する。これも今のように誰でもいつでもクリック一発じゃなく、自作そのものが斬新である。

先輩大工から1畳の合板をもらい、その上にペンキを塗りたくるのだ。

と言ってもホームセンターもない。僕はその昔、ペンキ屋でバイトしていたことがあった。そんなオシャレな工務店じゃなく、本物の職人である。その職人さんのところへ行き、色々と事情を伝えて、多種類の中から相応しいものを選んでもらった。

僕は小学生の頃は付録付きの月刊漫画を、中学時代は神社の写生や龍のイメージ画を、高校時代は教室や廊下、街の壁に落書きを(ごめんなさい)しまくるなど、とにかく絵が好きだった。

こうして店は、友人や世の諸先輩方の力と知恵を拝借して、改めて準備が始まった。

スパイスについては特に意識するわけでもなく、新たに考え直した料理にも自然発生的に多用していた。でも、現実の店造りにおいて、料理は確かに心臓部ではあるが、それ以外に大切なことが何十倍もある。

今のように宣伝やつながりがポチッの散歩みたいに簡単な時代じゃない。

一人でも店の存在を知ってもらうために、少しでも価値を感じてもらうために、まったく根拠も正解も見えない濃霧の中を、ただただ手探りで前進し続けるほか道はない。

田んぼ横のそっぽを向いた14坪、超高額賃料1ヶ月31万5千円は、若い闘争心をとことん奮い立たせる起爆剤であった。

つづく

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