« 打倒認知症おふくろ日誌〜スパイシー弁当プラン | トップページ | 執筆と料理の秋 »

歩くということ②~熊野古道取材の記録

鬼瓦権蔵(;゚∇゚)/、いや、うちのカミさんの将来の夢、「いつか熊野古道を歩きたい」のための、カワムラ取材録第二弾です。

前回はJTBるるぶ03~04での、熊野古道とそこに通じる街道(東海道、伊勢街道)での記録でした。実際に僕自身が、一眼レフカメラを片手に、三脚を肩にして延々と何十キロかを歩き取材撮影したものです。

情報誌レベルの取材でここまでするのはちょっと聞いたことがないのですが、僕は媒体が何であれ、本当に読者目線(この時は旅人目線)に立って取材を進めていくのが昔からのやり方。

当然、経費も時間も非合理極まりない、ということはしばしば。でも、本当に気持ちよく取材し、何よりも本が出てから本当に人のために役立ってもらうことを考えると、これ以外方法が思いつかないわけで。

そういう意味では15年経った今でも、まったく色あせていないと思います。古書屋でもなんでも、ぜひ探してみてください。

で、今回の熊野古道の取材録は何か?それは『新にっぽん風土記』という連載もの。これは『TOMORROW9月号』( ㈱ライフ会員誌)という本で、北海道から沖縄まで、毎月全国各地の郷土料理、スローフード、ご当地を愛する人々を取材していました。

とても立派なクライアントが出資する会員誌で、企画、編集、取材という一式を請け負い、とてもやりがいのある仕事でした。なので10年経った今も、つい昨日のことのように思うし、何よりかわいく思えてなりません。

写真は千倉志野さんという、めちゃ素直で優しくて、でもどこかに大胆さがあるフォトグラファーが担当してくれてました。

この『TOMORROW9月号』では熊野を特集。まず「食」から入って、後半に歩く話へ流れていくパターンです。

本誌はA4判型、フルカラー、基本6ページ、たまに8ページの展開でした。以下、生原稿記録です。

 
■連載『新にっぽん風土記』P26~31(TOMORROW9月号 ㈱ライフ会員誌)
(2008年。写真:千倉志野)
Stomorrow901_4

「熊野の熟れずし」

リード

熊野とは、紀伊半島の南部一体をさす古来の総称。
自然を神として崇めてきた日本人の信仰の象徴として、
熊野三山の霊場と参詣道が世界文化遺産になっている。
今回はそんな聖地に継がれる「秋刀魚の熟れずし」を詣でよう。
 

時を越えて蘇る「本馴れ鮓」

 目指すは熊野三山のひとつ速玉大社が鎮座する新宮だ。新大阪駅から特急で約4時間。車窓から太平洋や深い山々を眺めていうるうちに、さまざまな思いが馳せてくる。

 かつて熊野詣でを繰り返したという京の上皇や貴族は、この道をいったい何日かけて歩いたのだろう。長旅を強いられた古人のこと、きっと熟れずしは貴重な保存食だったに違いない。近江の鮒ずしのようにきつい匂いがあるのだろうか。

 いろんな空想をよぎらせながら夕方5時過ぎに新宮駅到着。駅から歩いて10分ほどの『東宝茶屋』で、2代目店主の松原郁生さんが満面の笑みで迎えてくれた。人懐っこくて穏やかな人柄もこの地の特徴である。
「遠路はるばるお疲れ秋刀魚ずは一杯いっときよ。秋刀魚の熟れずしは酒とやるのが一番やし」

 というわけで、本州最南端の酒蔵としても名高い新宮が誇る尾崎酒造の「太平洋」からはじめる。

「一言で秋刀魚ずしと言うてもいろいろあってね。ひとつは酢飯で作るいわゆる早鮨。次に今でも家庭で漬けられる1か月ほどの早熟れずし。そしてもう一つがこれ、うち独自の“馴れ鮓”よ」

 そしてついに待望の熟れずしとご対面。が、思っていたより匂いはやわらかで、塩気も少なく味にクセがない。秋刀魚はハムのようなしっかりとした歯応え。噛み締めるほどに、香ばしい旨味が滲み出してくる。シャリは近江のそれとは違い、こちらは魚と一緒に食べるスタイル。お粥以上、通常のご飯未満の形状と食感で、角のない酸味は実に食べやすい。ここに酒を含むと甘味が倍増する。

「この食感と香ばしさを出すには、熊野で獲れる脂の少ない引き締まった秋刀魚でないとあかん」

 黒潮が近い南紀は、同じ魚でも時期ごとに質の違うものを捕獲できる好漁場である。すしに向く秋刀魚の最盛期は三陸沖から寒流にのって南下してくる晩秋という。

乳酸のさっぱり感、天然アミノ酸の深い味わいに浸っているうちに、店にはいつのまにか常連客たちが集まっていた。隣にかけた一人の男性が声をかけてくる。

「せっかくここまで来たんだから、“本馴れ鮓”も食べなきゃ」

そう言って勧められたのは、なんと30年ものの熟れずしであった。わずかに秋刀魚の皮が残る程度で原形は留めていない。箸の先につけてなめてみると、魚のだし汁とヨーグルトを混ぜたような味がした。男性がすかさず「これでやると倍うまい」と言って、赤ワインを注いでくれる。するとどうだ。口の中は塩気とコクが浮き上がり、まるでハードタイプのチーズを溶かしたようなまろやかな味となった。

「“本馴れ鮓”は当家の考案と思っていたけど、聞くところによると大昔はおそらくこれに近いものが存在していたとか。保存食でもあるから信憑性の高い話やね」

 ほかにも鮎や山女【ルビ/やまめ】、鯖なども郷土料理として存在したという。川魚の本場は熊野川上流。かつて本宮大社から速玉大社へ参詣するために使われた禊ぎ【ルビ/みそぎ】の川である。

 この後、熟れずしは地域によって微妙に味や形が違うこと、今でも酒のつまみとして愛され続けていること、また正月には各家庭で漬けて食べられていることなど、話は夜更けまで延々と続いた。
 

熟成の町・新宮を詣でる

 翌日、町の人々から教えていただいた名所へ散策に出る。まずは駅から歩いて15分ほどの権現山【ルビ/ごんげんやま】。速玉大社の神が降臨した神域として名高い。538段もの急な石段を登ると立ちはだかるのは神倉神社。高さ100メートルほどの断崖絶壁に立ち、晴れた日ならコンパクトな新宮の町と壮大な太平洋が一望できる。

 ちょっと運動した後は、喫茶店に寄る。『喫茶バンビ』は、新宮に160軒以上もあるといわれる喫茶店の中で唯一のストレート珈琲専門店。店は仲之町商店街から細い路地を入った先にある。店内は銅版カウンターのみのわずか6席。売りは美味しいコーヒーと小西さんご夫妻の絶妙なコンビネーションだ。弘さんは寡黙にサイフォンを見続けながらも、時折、奥さんのしげ美さんの客とのやりとりに笑みを見せる。

「そうかいな、郁生さんとこを取材。ついでに言うとくけど、うちも創業30年でかなり熟れとるよ」

 しげ美さんの魅力は歯切れのいい冗談だけではない。地元の主婦から企業経営者、さらに旅人までの幅広い人々と、臨機応変にコミュニケーションしていくその接客能力の深さにある。それでいながらも引き際を心得た潔さもある。珈琲共々、香りは高いが後味すっきり。長い時を経てこそなせるお二人の熟練技であった。

 この後、世界遺産の速玉大社や、紀元前に不老不死の霊薬を求めて渡来してきた伝説の徐福の公園などを巡る。各所へは駅から歩いて30分以内。たった一日で日本のさまざまな伝統と出会うことができるから、これほど贅沢な旅もない。

 新宮には今なお熟成と再生を繰り返す人々の暮らしがひしめきあっている。
Stomorrow903_2

« 打倒認知症おふくろ日誌〜スパイシー弁当プラン | トップページ | 執筆と料理の秋 »

ライターとして、料理人として」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 打倒認知症おふくろ日誌〜スパイシー弁当プラン | トップページ | 執筆と料理の秋 »

2018年11月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

カテゴリー

Recommended book

  • 『おいしい&ヘルシー!はじめてのスパイスブック』
  • 『そばうどん2018』(柴田書店)Amazon
  • 『絶対おいしいスパイスレシピ』出版社サイト☆送料無料!
  • 『絶対おいしいスパイスレシピ』Amazon
  • 『山海の宿ごはん』(全編カワムラ取材)2005年あまから手帖ムック
  • 『カレー全書』(柴田書店)*送料無料!

SNS

club THALI

無料ブログはココログ