ここんところ一気に「畑ふわふわ日誌・まとめ編」を出血大アウトプットいたしました。
日誌の序章でも少し触れましたが、ここであらためて、なぜ自分が畑を始めたのか、について書きたいと思います。
僕が初めて畑に強い興味を持ったのは1998年頃のこと。三重松阪で日替わりインド定食の店『THALI(ターリー)』をやっているときでした。店のテーマは「日替わり定食」であること。今でこそ日替わりの定食的カレーだけの店がたくさんできていますが、当時は僕が知るところ日替わりでなく定番の定食スタイルで大阪に一軒のみと実に希少で、ましてやインド料理と言える店で日替わりといえば、グレイ―ビー(カレーのベース)は同じで具材が違う程度というのが普通でした。
そもそもインド料理店は1000円で物を食べるという次元の外食産業ではなく、3000~5000円、ランチでも1500~2500円というのが常識的相場でした。イタリアンやフレンチ、スペイン、中国などと同じく、外国料理レストランの一種としてちゃんと確立されていたのです。
そこに、インド人をはじめパキスタン人やスリランカ人、ネパール人の友人がたまたま多くいた僕は、彼らと公私を共にすることが多く、実際の食事は、白ご飯にすっぱからい漬物とヨーグルト、ムングやトゥーランなどの小さな豆の煮込み、野菜の汁気のあるカレー、汁気のないカレーなどを最終的にごちゃまぜにして食べており、これこそをメニュー化できないのか!?と強く感じた次第。
が、彼らにいくらそれを意見しようとも、それはあくまでプライベート(質素というニュアンス)の食事であり、高級志向(彼ら独自の信じ込みだけども)の日本人には合わないし、何よりもそれは失礼なこと、と言ってきかないのです。
カースト制度や厳しい経済・気候環境、貧困社会の中で生き抜いてきている彼らにとって、日本人は特別ハイレベルな人種だと信じていたわけですね。中には、どうせ日本人は何もわかってないから、といい加減な気持ちでいる者もいましたがそれはごくわずか。多くは、料理の内容、提供方法、食器の質、価格帯などすべてにおいて、これが失礼のない、日本人が最も喜んでくれる形と信じていたのです。
でも、僕には彼らのプライベートの食事の内容、食事方法、食器、価格帯こそが今の日本人が求める志向であると確信がありました。
そこで、1998年に縁あって僕は三重県松阪市に引っ越し、あの時の彼らのプライベートの食事を出す店を作ることになりました。
店は駅から徒歩5分ほどの場所にあり、最初は勤め人をターゲットに考えました。働く人々に、野菜が豊富でスパイスをシンプルに使った料理法でバターや肉類に依存しないヘルシーな料理を日常的に食べてもらいたいと思っていたから。この時の計画書は今でも残しています。
で、実際に店を開けてみると、最初はゲテモノ扱いでしたが徐々に受け入れられ、インドマニア、インド人、その他のアジア人、西洋や欧米人までたくさんの常連客に恵まれ、東京の雑誌や名古屋のテレビなどが取材に来てくれたりも、メディアからも注目してもらいました。
この時、世間にはスパイスを自らの手で使いこなすとか、ブイヨンや小麦粉に頼らず素朴なインド料理を作るとか、定食という不思議なスタイルがここにあるとか、そういう感じで伝えられ続けていましたが、当の僕が一番メッセージしたかったのは、毎日いろんな野菜をパワフルな味で楽しめる、ということでした。
当時はまた、日本の食卓から日本産の食材料がどんどん消え行く状況にあって、少しでも地産品を大事にしたいという思いもありました。だから、地産品を多く扱う地元の八百屋が主に仕入れ先となっていました。
そして半年もたたないうちに、当時大阪から愛知に引っ越して間もない母親から「おばさんが自家菜園やってるから手伝いにくれば」と連絡があったのです。
そこは名古屋の中心地から電車で10分ほどのところだったのですが、住宅が少しあるだけであとはだだっ広い田園地帯でした。
家庭菜園とはいえ、広さは20メートル×15メートルはゆうにある広さ。そこに何種類もの野菜が植わっており、収穫や耕しなどを手伝いながら、できた野菜をもらって店で使うというパターンになっていったのです。
実際のおばさんの菜園(愛知県)
ただ、僕は月に1,2回程度顔を出すだけで、いくらおばさんから野菜作りの説明を聞いても、情報が頭の中に入るだけで、現実的なことはほとんど理解できませんでした。
そしてある時、母親が畑の白菜で僕が得意な中華料理「鶏の辛しいため」を作ってくれというので、畑から白菜を一つ収穫して、隣町に住んでいた母親の家まで行ったのです。で、いつものように調理を進め、味見をするとこれがまったく味が決まらない。最初は醤油や豆板醤が足らないと思い、加えてみたのですが今度は味が濃くなってしまい、スープを加えるとやっぱり味が緩くなってしまう。
結局どうやってもいつも通りの味にならず、すっかり鍋物のようになってしまったそれを器に盛り付けるほかありませんでした。
母親も「ほんとだね、いつもと全然違う」とぽつり。もちろんそれはマイナスの意味で。
その後、自分の調理法や調味料を何度も再確認しましたが、やっぱりそこに間違いはない。と、そこでふと白菜がしっとりとしていることに気が付いたのです。そういえばこの白菜、見たことがないほど肉厚で瑞々しい。いや、収穫直後は根からぼたぼたと水分が出て、むしろ水っぽ過ぎたのではないか、と思ったのです。
すると母親が「そう、根から水がしたたり落ちてた?いえば昨日まで雨が降ってたね。きっと水分を含みすぎているからこういう味になったんだ。鍋とかなら問題なかっただろうけど、炒め物だから」
「そう、この料理は特に強火でさっとスープを煮込むだけ。素材の状態がもろに影響する」と僕。
この瞬間、自分が店の厨房でしか料理のことを考えられていないことに気づきました。店と言ってもわずか7坪ほどの狭小な店。常にお客さんとセッションしながらの店だったので、まな板に上る以前のことまでは頭がまわっていなかったのです。
我々はどうしても日々のルーティーンが忙しくて、仕入れ先も固定してしまうし、そこで物を見ることが目利きだと信じ込んでしまっている。でも、それ以前のことはまったく知りもしないし想像もできない。どんな畑でどんな人が作っているのか。どのように出荷され、いつだれが八百屋まで運んでいるのか。また、それらのことがたかが白菜一つにどのように影響しているのか。
我々が知っている白菜は、生産者、流通業者、販売者などの手を経た末のものなのですね。例えば、雨が多く降れば、もしかしたらその前に収穫するのかもしれないし、逆に雨後何かしらの方法で水分を抜いて出荷しているのかもしれない。また、あるいは末端の八百屋が上手に乾かしている可能性もなくはない。
本当のおいしさとは何か。野菜の魅力とは何だ?ヘルシーだけか??それよりずっと前に、もっともっと大きなことがある。僕はそのことを知っているようで知らない。と、鳥の辛しいための失敗によってそう気づいたのです。
後日、菜園をやるおばさんにそのことを話すと、「野菜は太陽と土と雨によってできとるんやわ。なに、お前はそんな当たり前のことをいちいち考えてるのか?変わった子だね~」と言って笑われました。
1999年頃、菜園にておばさんと愛犬サクラ(愛知県)
いや、情報としては知っているけど、身体ではわかっていない。だって僕はいつも通りの料理の枠から出ていないから。
店に戻った僕は生まれて初めてプランタによる栽培を始めました。いろんな種類のトウガラシ、コリアンダー、トマト、パセリなど。まったくドシロウトなので、当然のようにうまくいきません。何とか栽培できたのは唐辛子くらいのものでした。嬉しすぎて、3歳になったばかりの息子にそのトウガラシを持たせて、写真をパチパチ。
この時、いつか自家菜園を持った店を作りたい、と強くそう思ったわけです。
が、実際には大阪に戻ってきて著述業、料理研究業に勤しみ、どんどん自家菜園からは遠ざかっていきました。と同時に不思議と、有機野菜の広告チームに所属したり、雑誌やテレビ番組などで農家を取材する機会が多くあり、さらに公私ともに農家のお手伝いにいったりと、思いはどんどん募る一方。おそらく自分が取材した農家は全国に50軒以上はゆうにあると思います。
ですが、世の中が不況と叫ばれるほどに自分は月に一日休めればいいというほども多忙を極め、20年があっというまに通り過ぎてしまいました。
そこに、まさかまさかの節目がやってきたのです。コロナです。もう、諦めかけていた畑への思いが、どこからかふつふつと湧き上がってきたのです。そうだ、自分がやりたかったことの大きな一つがコレだったと。
4月8日から始めたので今日で1ヶ月半が経ちました。「農家は毎年一年生」と昔から各地の農家から耳にしてきました。それくらい、太陽と土と水との付き合いは多様ということでしょう。最近は、栄養や病気、獣、虫のことも、理解までは程遠いですが、目の当たりにすることが増えてきました。
おいしさの上流は畑にあり。その原点は土、太陽、雨にあり。当たり前だとまた笑われそうですが、僕は実際に突っ込んでいかないと理解できない体質。というわけでチャラい僕の畑レポート「畑ふわふわ日誌」を最近書き綴っておりま~す。
「畑ふわふわ日誌」全編リアルタイム
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-5baffc.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-a660ae.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-fcae5c.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-a2010d.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-cdb679.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-7db768.html
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http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-351bac.html
http://thali.tea-nifty.com/spice/2021/05/post-7cb179.html
ちなみに本日5月22日は、ここ数日の大阪の長雨の合間の晴れ間?曇天?
お世話になっている、オーガニックファームhara のスエノブ師匠のところへ行き、その後畑で、トマトの手入れなどを行う予定です。合間に現在注目している、とあるパティシエさんのレシピページの編集構成を作ったり、現在協議中の料理関係の仕事の企画を考えたりと、一応仕事もしてますよ~🎬